
BMWの開発した画期的なバルブトロニックエンジンの設計においては、マルチボディシミュレーションが中心的な役割を果たしました。このエンジンは、バルブリフトを機械的に自在に変化できるようにした初の量産エンジンであり、スロットルバルブの圧力損失を無くして約10%の燃費削減を実現しています。BMWのバルブトロニックエンジンは、最新鋭のGDIエンジンよりも優れています。なぜなら、燃料効率は同じくらいなのですが、特別な品質の燃料を必要としないからです。このように、全く新しいバルブ機構を設計することは、出力、燃費、そして振動騒音や乗り心地に与える影響を考えると、それは最大のチャレンジでした。
このプロジェクトでBMWのエンジニアは、物理プロトタイプがおこなわれるよりはるか以前にLMS DADS/Engineを用いてマルチボディシミュレーションを実施し、重要な運動特性について検討しました。設計の初期段階で、単一バルブ機構の機構解析モデルが作成され、部品レイアウトと最適化の検討が行われました。その後、全体エンジンモデルが作成され、シリンダによって様々に変化する影響の検討が行われました。バルブ機構がエンジン回転数の制御に用いられるので、この検討は設計上特に重要なものでした。「マルチボディシミュレーションなしでは、バルブトロニックエンジンの非常に高い品質基準を達成することはできませんでした」と、機構設計の数値解析担当のMichael Allgerier氏は述べています。
BMWのバルブトロニックエンジン
BMWのバルブトロニックエンジンは、エンジンの自由な吸気を妨げているスロットルバタフライバルブ機構を廃止し、自在可変バルブリフト機構を採用することにより、自動車エンジニアリング分野に大躍進をもたらしました。カムシャフトと吸気バルブの間にはレバーが置かれ、カムシャフトからのレバーの距離は、モーターによって動作する特別の偏心シャフトによって制御されています。エンジン負荷に応じてレバーが位置を変えると、それはカムプロフィールによってバルブリフト量を大きくしたり小さくしたりする運動に置き換わります。この方式は人間が呼吸する場合おt類似しています。我々は大きく息を吸う必要の無いときは、口または鼻腔を閉じる事によって吸気量を絞ることはせず、単に浅く短く息を吸うだけです。この新開発のエンジンでは、吸気絞りによる圧量低下を排除できたため、通常の運転条件下で約10%まで燃料効率が改善されています。
このエンジンのもう一つの利点は、アクセルペダルが踏み込まれるとほぼ同時にエンジンが反応することです。これは、負荷制御がスロットルではなく燃焼室で直接行われるため、スロットルバタフライと燃焼室の間の吸気マニホールドを満たす必要がないとう事実によるものです。この新しいエンジンを搭載したEuropean 3シリーズは、ヨーロッパのテストサイクルにおいて40.9マイル/ガロン(mpg)を達成しています。この車種の前モデルでは約36mpgでした。また、316tiモデルは10.9秒で62マイル/時間(mph)の加速性能を発揮します。これは以前よりも1.8秒速くなっています。最大速度は125mphであり、以前のモデルより7mph速くなっています。
キネマティック特性の設計プロセス
BMWは、新しいエンジンのバルブ機構を開発するにあたり、チャージサイクルの要件から決まる(言い換えるとエンジン出力とトルク性能から決まる)目標値に基づいて、バルブ機構のキネマティック特性を設計することから始めました。その時点では、シリンダヘッドの設計も、バルブ機構の実装包絡面をかなり厳密に定義できる段階まで進んでいました。カムプロフィールの定義には、バルブ機構のキネマティック特性のモデル化専用に社内開発されたカスタムコードが用いられました。カムプロフィールに起因する速度/加速度特性と降伏力/応力を調べるために、準静的解析が行われました。最大エンジン回転数における慣性力から、駆動部品のリフトオフを防止する目的のバルブスプリングの初期設計が得られました。エンジニアは、設計目標を満たすと同時に適切なコストで製造できる製品開発を目指して、多数の設計案を比較検討しました。
キネマティック解析がバルブ設計の重要な第一ステップではあるのですが、エンジンが高速回転すると、バルブの実際の動的なリフト運動は理想的な運動学的挙動と大きく異なってきます。これは、部品の弾性、バルブラッシュアジャスター、そしてバルブスプリングのサージング特性など、エンジン回転数その他の条件によって変化する要因によるものです。すなわち、リフト段階でバルブスプリングの共振によって引き起こされる振動などの重大な動的性能には、キネマティック解析では対処できません。さらに、油圧や油温そしてオイルフォーミングなどの動的な特性も、バルブ機構の動的性能に重要な役割を果たしています。従来は、バルブ機構の動的設計はもっぱら実験に頼っていました。そこでは実際に試作が行われ、試験され、その結果から更なる試作が行われていました。この方法の難点は、試作実験には多大な費用と時間を要することです。最近になって、BMWはますます増大するバルブ機構設計の複雑さと性能改善要求に対処するため、マルチボディシミュレーションを利用し始めました。この流れは、エンジンのシミュレーション工程を簡素化するよう特別に設計されたマルチボディシミュレーションパッケージの共同開発によってさらに加速されています。
実験とCAEの優れた相関性
BMWが機構解析プログラムLMS DADSを選択した理由は、その立証された数値安定性、弾性体のシミュレーションにおける有限要素解析との東郷、そしてユーザー定義のサブルーチン機能にありました。LMS DADS/Engineは、バルブ機構のシミュレーションに必要な特定の機能、たとえばカム接触要素、燃焼力要素、コイルバネモデル、および弾性体モデルなどの特殊機能を1つにまとめてDADSに組み込んだものです。
ユーザーは、ジョイント、拘束および力要素をシステム上に定義します。そうすれば、DADSが非線形運動方程式を自動的に解き、反力、位置、速度、および加速度などをシミュレーションの時間ステップ毎に計算します。結果は、グラフとともにリアルな三次元アニメーションで表示されるので、エンジニアはエンジン部品が運動中に変形する様子などを視覚的に確認できます。
最近では、LMSの機構シミュレーション担当技術者とBMWおよびDaimler Chrislerのエンジン設計者との共同開発により、新しいコイルバネ要素が開発されました。この開発では、数値計算効率とともに、コイルのぶつかり合いの正確なモデリングと高速回転時のサージング効果が考慮されました。この新しいバネモデルには、有限要素解析の結果を剛体機構モデルに結合するDADSの弾性体モデル化手法が用いられています。この要素を用いたシミュレーション結果は、実験結果と高い相関性を持つ事が確認され、その妥当性が実証されました。
動的特性の設計プロセス
Allgeier氏は、動的特性の設計にあたって、まず単一バルブのDADSモデルを作成しました。最初のモデルは、基本的にキネマティック解析用のモデルそのままの、剛体要素と単純化されたバネ剛性で定義されていました。そのモデルの妥当性が確認された後、Allgeier氏は、弾性を考慮したい部分に有限要素モデルを組み込み、更にLMSとの共同開発である最新のコイルバネ要素を追加してモデルを改良しました。
バルブヘッドとフィンガーフォロワーの剛性が有限要素モデルを用いて計算され、バルブヘッドとバルブシートリングの間、およびバルブステムとカムフォロワーの間の該当の接触剛性として割り当てられました。全体的な挙動にたいするそれ以外の効果は、バルブラッシュアジャスターとカムシャフトベアリングを経由して、シリンダヘッド部にあるバルブ機構の支持部からもたらされます。この時点では、シリンダヘッドの形状はまだ固まっていなかったので、BMWのエンジニアは以前のエンジンを用いて最初の動的シミュレーションを実施しました。
逆に、マルチボディシミュレーションからは、バルブ機構の可動部品とシリンダヘッド構造に対する作用力が求まるので、それらがシリンダヘッド設計の最終確認に利用されました。そして、より清家久那剛性値を入手するために、後からシリンダヘッドの有限要素解析が実施されました。また、マルチボディシミュレーションから計算されたバルブ機構の自由状態の質量効果が、カムシャフトのバランス検討に用いられました。バランス検討の後、エンジンの騒音評価や他のエンジンサブアセンブリの振動関連の設計のためん、残りの質量効果が追加されました。シミュレーションの最終ステップは、シリンダ間の整合性を確保するために、全体バルブ機構をモデリングすることでした。スロットルではなく吸気バルブ位置で制御されるエンジンでは、滑らかなアイドリングを確保するために、すべてのシリンダでバルブリフト位置が同一にならなければいけないため、このシミュレーションは特に重要となります。
「この画期的なバルブトロニックエンジンを、高い品質基準の元で定められた時間内に開発できた理由の1つは、マルチボディシミュレーション技術にありました」とAllgeier氏は述べています。