P+Z社がLMSの音響シミュレーションツールを用いてCVTの放射音を最小限に抑える

ここ数年、無段変速機(CVT)の技術進歩は目覚ましく、低燃費化および高性能化とともにその利便性はさらに向上してきました。しかしながら、これらの無段変速機から生じる広帯域ノイズが、音響エンジニアリング上の新たな課題を生じさせています。P+Z Engineering社は、大手自動車メーカー向けの開発コンサルタントプロジェクトにおいて、余分な重量を加えたり製造コストを引き上げたりすることなく、新開発CVT製品の音響性能を効率良く最適化することに成功しました。成功の秘訣は、開発初期段階で音響性能の正確な認定を可能にする専用の仮想シミュレーションプロセスをP+Z Engineering社が構築できたことにありました。このプロセスの重要な要素のひとつであるLMS SYSNOISEが、音響放射シミュレーションを前例のない速さと精度と柔軟性で実施できるようP+Z社の部隊をサポートしています。
広帯域ノイズへの果敢な取り組み
ここ数年、ドイツの大手技術コンサルタント会社であるP+Z Engineering社は、主要な自動車メーカーの様々なCVT開発プロジェクトに参加してきました。これらのプロジェクトにおいて、P+Z Engineering社は新開発CVT製
品の音響性能の最適化に重点的に取り組んできましたが、通常、一般の変速機と比べるとCVTには異なるタイプの音響問題が内在しています。一連の歯車を内蔵する手動変速機や自動変速機では、主に特定の周波数でピークノイズが生じるのに対して、無段変速機では、広い周波数スペクトルにわたって振動が生じるのが普通です。
ミュンヘンに本拠地を置くP+Z Engineering社のCAE GearboxプロジェクトマネージャであるGisela Quintenz氏は、次のようにコメントしています。
「制振材の使用は製造コストを上げたり伝熱性を低めたりするので、これを回避するために我々は、構想設計段階から効果的に適用できる専用の音響シミュレーションワークフローを確立しました。設計の早い段階で音響シミュレーションを実施することによって、音響問題の根本原因を特定でき、例えば、ベアリング位置を調整したりCVTハウジングの設計を変更したりして、問題解決のために変速機に大きな設計変更を加えることも可能になります。

仮想シミュレーションのプロセスは、CVTアセンブリの構造解析用の有限要
素モデルを作成することから始まります。P+Z社のエンジニアは、ハウジン
グだけでなく、バリエータプーリー、チェーン、シャフト、ベアリングなど、すべての内部部品を慎重にモデル化します。可能であれば、エンジン構造もモデル化されます。ここでは、その元々の重量、重心位置、フランジ形状を正確に定義することが重要です。
モデル化が完成すると、P+Z社のエンジニアは最初の解析を実行して、組み立てられた全体モデルの固有振動数を計算します。次に、稼働時の振動を計算するために、彼らはまず最も厳しい実稼働条件を定義します。関連するベアリングの励振力は、試験装置上でのプロトタイプの測定値か、またはマルチボディ シミュレーション結果から取り込まれます。P+Z社のエンジニアは、0~4キロヘルツの周波数レンジにわたって1または10ヘルツきざみで周波数応答解析を実施します。この結果は、通常、稼働時の振動よりも過大なものとなります。そして次の段階の作業では、音響関連の現象に焦点が当てられます。
結果として生じる音響放射のシミュレーション

振動するCVTハウジングと内部部品によって放射される音の強さは、音響シミュレーションによって調査されます。P+Z社のエンジニアは、アセンブリのCADモデルまたは有限要素モデルから、音響解析用の境界要素モデル(BEM)を作成します。CVTのBEMモデルは、最大4キロヘルツまで精度良く計算できるように、平均要素サイズが約10ミリメートルの要素数15,000以上のモデルとなるのが通例です。P+Z社は、LMS SYSNOISEによって、後から音響試験で相関性を検証するためのマイクロホン位置か、または物体から1メートル離れて生成されるISO半球面上の点群位置で音圧レベル(SPL)を計算しています。LMS SYSNOISEは、この観測点メッシュとともにCVTのBEMモデルを入力とし、非連成間接法BEMシミュレーションを実行して、音響伝達ベクトル(ATV)のマトリックスを計算します。
Gisela Quintenz氏は次のように説明しています。「LMS SYSNOISEは、ATVを生成した後、それらを通常の周波数応答解析から取り込んだ表面法線方向速度と組み合わせます。音圧グラフが非常に分かりやすく表示されるので、我々は問題となる共振現象の検討に専念することができます。また、要素の寄与度プロットを評価することで、関連する音響的問題箇所の検索や、最も適切な設計変更案の選定が可能になります。LMSのATV法はこのアプローチに不可欠なものです。なぜなら、設計変更案の音響評価プロセス全体にわたって、シミュレーションを素晴らしく加速してくれるからです。」
CVTの初期設計で音響性能を最適化するため、P+Z社のエンジニアは様々な設計変更案を評価しています。考えられるものとしては、ベアリング位置、シャシーへの取り付け方法、シャフトの形状、鋳込材料、ハウジング形状などの変更があります。フランジ設計には特別な注意が払われます。騒音低減に大きく貢献する場合があるからです。音響シミュレーションに際しては、特定の旧型パーツを再利用できないかという点も系統的に勘案されます。開発のこの段階で、P+Z社のエンジニアリング部隊は、いつも局所的に6デシベルを超える音圧の低減を達成しています。
対策の最も効果的な組み合わせ
それに続く開発段階では、コストと重量の削減はもちろんのこと、機能性、組立性、鋳造まで最適化するために、音響シミュレーションの改良ループが実施されます。音響試験用に最初の動作可能な試作アセンブリが利用可能になるのは、この段階の終わり頃でしかありません。この試作アセンブリは最新の設計内容を反映したものではありませんが、これを元に仮想モデルを検定することや、後のシミュレーション実行に向けてその信頼性を向上させることは可能です。
Gisela Quintenz氏は、エンジニアリング上の取り組みのいくつかを明示するとともに、改良ループの段階でどのように対処しているかを次のように説明しています。
「この段階でCVT変速機に対して実施される仮想シミュレーションは、通常はハウジングとその内部ブラケットの形状最適化を目的としています。ハウジング外面の局所的な膜振動が過度にならないように、リブや溝が加えられます。形状変更の効果をシミュレーションする以外に、LMS SYSNOISEは、鋳造されたハウジング外面の肉厚変化を評価するためにも用いられます。例えば、波形やリブによって剛性を高めたデザインでは、一般に特定の共振点が周波数の高い方へシフトするとともに、局所的に放射される音の振幅も小さくなります。ただし、その補強策が振動面の範囲を広げてしまった場合は、逆に音圧レベルを高める結果になることもあります。そのような場合、アーチ形のハウジング形状が、共振周波数をシフトさせるだけでなく、音圧レベルも低下傾向を示す有効な代案となることがあります。
あるときには、特定の音響問題を解決するために、かなり異例の対策が取られる場合があります。内部のベアリングブラケットの事例がそうでした。このとき、剛性と重量を変化させても十分な音圧レベルの低減は得られませんでした。そこで、内部のベアリングブラケットを固定方法をわずかに変えた2つのパーツに分割して配置したところ、目標のレベルが得られたのです。」
変速機の設計が凍結されるまでに、エンジニアは、電子モジュールの組込を終え、変速機の全体的な剛性を調整し、そしてオイル充填の影響も評価しています。
深い専門知識と豊富な経験はもちろん重要ですが、高度な音響エンジニアリングプロジェクトを遂行するこ
とによって、信頼性が高くハイパフォーマンスなエンジニアリング上のソリューションが導かれるのです。
Gisela Quintenz氏は次のように締めくくっています。
「CVTの広帯域ノイズを解明するには、幅広い周波数レンジを細かな周波数ステップで計算する必要がありますが、そのためにLMS SYSNOISEが特に有用であることが分かりました。その高速で適用性の高い音響シミュレーション機能は、CVT変速装置の音響性能を最適化するには、いかなる設計変更が費用効率が高く製造上の実現性も高いかということを突き止める上で、大いに役立っています。
全体としては、これら音響最適化プロジェクトが成功するか否かは、経験豊かなCADエンジニアと実験エンジニアの緊密なる協力関係と、P+ZEngineeringが開発プロセスの早期開始段階から展開するシミュレーション駆動型のアプローチの2つの組み合わせにかかっていると言えます。」