クラッチやショックアブソーバのメーカーは、様々な車両メーカー向けに100年以上に渡って優れた製品を供給してきましたが、中でもZF Sachsの部隊は、部品メーカーとして操縦安定性の問題にまで果敢に立ち向かった極めて優秀なチームでした。ZF Sachsでは、部品単位と実車状態の両方でNVH問題に入念な注意が払われ、そしてその課題は、LMSの製品とサービスの支援を受けて見事に解決されました。
車にハイレベルな居住性が求められるようになってきました。そのため自動車メーカーは、競争力を保つ上で、車の音響特性を常に改善しているという姿勢を明確に示す必要に迫られています。エンジンとパワートレインから来るノイズは、近年大幅にに削減されてきましたので、車の騒音源としては、サスペンション関連のロードノイズが顕著となりつつあります。軽量化に向けた傾向が進む中、この問題は将来さらに緊急度を増すに違いありません。そのためには、優れたダンパー設計が何よりも重要となります。

ZF Sachs NVH部門のAlexander Kruse博士によれば、消費者が乗用車の良し悪しを決めるとき、振動騒音性能が重要なファクタとなっているそうです。消費者が車室内騒音を重視し、ショックアブソーバがそれを低減する重要部品であることを考えれば、彼の部門は、製品開発サイクル全体を通しても重要な役割を担っていると言えるでしょう。彼の部隊では、ショックアブソーバのバルブ部品に対して最初のシミュレーションが実施されてから、自動車メーカーによる実車状態での走行試験が行われる時点に至るまで、全体システムとの関連を考えながら、コンポーネントの音振性能に対する試験とモデル化が繰り返され、そして改良が加えられています。
車室内騒音の主観的評価
ショックアブソーバは、車の部品の中でも最も大きな応力を受けるものですが、様々なシャシー ノイズ(主にタイヤノイズ)の伝播路にもなっています。ショックアブソーバはまた、低周波のロードノイズを、乗客にとって耳障りな高周波ノイズに変えて車体に伝えています。またダンパーでは、バルブ部品の衝突、オイル流れ、キャビテーションとフォーミングの影響、そして摩擦が生じており、これらの動的作用がまた別の振動騒音を引き起こしています。これらすべてが原因となってキャビンに伝播される振動騒音は、“コトコト”とか“ヒューヒュー”とかいった感覚的な言葉でしばしば表現されます。
自動車メーカーが車室内騒音の主観的な感じ方に対して、常に定量的な目標を設定する訳ではありません。ダンパーが車室内騒音に与える影響は、消費者によって主観的に判断されます。したがってNVH部門のゴールは、ショックアブソーバから生じる不愉快で望ましくないノイズを最小限に抑えることです。
振動騒音の測定
ショックアブソーバの動的挙動と車両に対する相互作用について理解を深めることが、より効果的な最適化を可能にし、より進んだノイズ低減の達成につながります。構造の動特性を見極め、設計変更の指針を得るため、ZF Sachsでは、NVHに関する様々な分析を行って、ダンパー性能の最適化、キャビン騒音の低減、そして車両全体性能の改善に役立てています。Kruse博士は、下部取付部でダンパーの変位や、そのバルブ、ピストン、上部取付部材の動きを測定しています。また彼は、ダンパーとその機構に働く力や、ダンパーから車両への振動騒音の伝達点に作用する力を測定しています。
厳格な順序でなされる試験
車の騒音評価においては、実際に問題を引き起こすように、そしてそれが問題の周波数レンジとなるように、運転状態と路面の影響を正確に調べる必要があるため、常に路上試験が実施されます。両耳にマイクロホンの付いたダミーヘッドで、ドライバーと乗員によって知覚される車室内の騒音レベルが測定されます。その後、路面状態が4ポストの試験装置で再生され、その騒音が車室内でどのように知覚されるかについて、より詳細な測定が実施されます。最終的には、騒音レベルとショックアブソーバの各種パラメータ(例えば、ショックアブソーバの位置)との関連が調査されます。
最適化への方策ショックアブソーバの実際の最適化は、油圧パルス装置を用いて行われます。ZF Sachsでは、3つの異なる対策に対して厳格な目標を定めています。それらは、振動源の振動を抑えるための減衰力の最適化、ダンパー構造の振動応答を抑えるための動的構造特性の最適化、そしてキャビンへの騒音伝播を減らすためのダンパー取付部の最適化です。
続けて車室内騒音レベルが測定され、これらの対策によって騒音が大幅に低減されたことが確認されます。一例としては、ストラット モジュールの構造解析によって、フレームが剛になりすぎていることが判明しました。そのためZF Sachsでは、その剛性を緩和して振動を抑えることに成功しました。また取付部の最適化の例では、その前後で測定値を比較した結果、3dBAの騒音低減に成功しました。
最適化されたダンパーが依然として問題を引き起こす場合は、ロードノイズの伝達経路解析が車両全体に渡って実施されます。車輪からショックアブソーバモジュールへの伝播、車体を通じた伝播、そして車室内への伝播のそれぞれに対して、振動騒音の伝播路が追跡されます。この試験と最適化の全プロセスは、自動車メーカーが満足するショックアブソーバとなるまで、数回繰り返す必要があります。ショックアブソーバはまた、車の乗り心地や操縦安定性にも影響を与えます。そのためこの最適化は、車室内騒音の低減と乗り心地や操縦安定性との間でバランスの取れたものでなければなりません。
ZF Sachsでは、モバイル試験でも実験室でも、LMS製品が様々なアプリケーションに利用されています。データ収集ソフトウェアLMS CADA-Xがフロントエンド装置LMS SCADAS IIIと組み合わされ、4ポスト試験装置でのシミュレーションで空気伝播と固体伝播ノイズの測定に用いられています。また、モバイル測定にはLMS Pimentoが用いられ、油圧パルス装置にはLMS Roadrunnerが利用されています。
騒音の聴取とフィルター処理には、CADA-XのSound Qualityモジュールが用いられ、されにこれによって、客観的な音質評価のためにラウンドネス、シャープネス、ラフネスなどの心理音響上の基準値が計算されます。また、バルブの衝突から生じる耳障りなノイズがCADA-X TMONの時間-周波数解析を用いて分析されています。
シミュレーションによる振動騒音対策
CAE製品を用いたシミュレーションも、NVH問題の改善に役立ちます。ショックアブソーバの“仮想”モデルが開発されています。これは、ショックアブソーバの物理特性を数学的に表現したモデルと言えます。ZF Sachsでは、物理プロトタイプを作成する前に、このモデルを用いてショックアブソーバの減衰特性を予測しています。構造モデルとANSYS CFD (数値流体力学)ソフトウェアを併せて使用し、バルブ性能の調整に利用されています。Kruse博士は、開発プロセスにCAEの利用をもっと増やしたいと考えています。彼は次のように語っています。「我々のチームがプロトタイプを実際に利用できるのは約1週間だけです。そのため、その時間を最大限に活用することが重要です。我々は、トラブルシューティングをおこなうだけでなく、最初から低ノイズ製品を設計できる体制へと移行しようとしています。実験から得たデータを、我々が設計変更時に行っているシミュレーションとうまく組み合わせれば、それが可能になるでしょう。CAEを活用すれば、振動騒音の性能改善サイクルをかなり短縮できると思います。我々は、さらに密接にCAEと連携していく予定です。」

