新しい構成の機室に対してその音響特性が予測できれば、Boeing社の民間航空機グループにとって、費用の高くつく実験に取りかかる前に、様々な機室の設計案を検討し改善することが可能になります。

Boeing社では、エンジンその他の振動源から生じる低周波ノイズを予測するために、構造モデルと音響モデルを結合して利用しています。Boeing社の民間航空機グループの上級エンジニアであるJim Johnescu氏は、音響モデルの境界条件(機室内の空気、シート、壁面などによって吸収されるノイズ)を正確に決定するため、実験ベースの手法を採用しました。このアプローチによって、機室音響モデルの精度が向上し、より正確な音響解析が可能になりました。
Boeing社がこのプロジェクトに着手した理由は、有限要素(FE)解析によって機室の低周波ノイズをより正確に予測する必要があったからです。FE解析は、解析領域全体を明示的にモデル化し、系の動特性をより良く表現できるので、低周波の音響解析には理想的なツールといえます。機室設計は、飛行時のノイズレベルに大きな影響を与える要素を含んでいます。プロジェクトの目的は、特定の機室設計の音響特性を概念設計段階で予測可能にすることであり、その結果、最初の試作が行われる前に必要な設計変更を施すことも可能になります。しかしながら、FE解析結果を飛行機の性能や重量・コストの最適化に利用するには、FEモデルの精度的な信頼性が絶対条件となります。
騒音源から開始する旅客機の機室内に生じる低周波ノイズの主な原因の1つは、ショックセル現象によるものです。これは、ショックセル構造の定常的な外乱とジェットせん断層内の大規模な乱流との間の相互作用によって引き起こされます。ショックセルの波動は、一般に周波数が50~2000Hzのエネルギー成分を持っており、これが胴体へと伝搬します。もう1つの主たる原因であるエンジン振動に関連したノイズは、エンジンから放射される固体伝播音です。2つの主要なエンジンシャフト音N1とN2は、一般にそれぞれ40~100 Hzと100~200 Hzのレンジにあり、翼を通じて胴体に伝搬する振動エネルギーを生成しています。これが機室の音響モードと連成してノイズを引き起こします。エンジン振動に関連したノイズの影響を理解するには、このような連成効果を考慮する必要があるため、飛行機全体をモデル化しなければなりません。実際の機室設計によって、音響エネルギーがどのように機室内に分散し散逸していくかが決まるため、それは音響性能に決定的な影響を与えます。例えば、布製シートは革製シートよりも、音響エネルギーの吸収率が高いのが普通です。
したがって、機室の音響特性を予測するには、しばしば複数の異なる解析モデルを必要とします。ローターの動特性を検討するためのFEモデルからは、エンジン振動に関連したノイズの励振データが生成されます。そしてこのモデルが、飛行機全体の構造モデルに結合されます。振動騒音の機室内への伝搬は、多孔質弾性媒体中の音響伝搬モデリングに関するビオ理論に基づいて、側壁モデルを用いて予測されます。この手法は、構造モデルと音響モデルの結合を可能にするものです。
Boeing社は、音響モデリングにLMS SYSNOISEを利用しています。その理由は、構造モデルを結合するための処理が非常に簡単なためです。例えばLMS SYSNOISEでは、構造モデルと音響モデルの節点同士が互いに同一座標になくても問題なく結合できます。この解析で問題となる周波数は200Hz以下であり、これは約2メーターの波長に相当します。これによって音響モデルの密度が決定されます。
シミュレーションの精度を上げる
従来Boeing社では、音響モデルの境界条件(機室内の空気、シート、壁面などによって吸収されるノイズ量)を正確に決定することに限界を感じていました。解析結果から傾向を予測することはできましたが、設計が騒音基準に合致するか否かを判断することはできませんでした。Boeing社の民間航空機グループの上級エンジニアであるJim Johnescu氏は、校正音源を用いた実験を行い、機室内の正確な境界条件の生成に成功しました。これによって、音響モデルからより精度の良い音響結果を得ることができるようになりました。
Johnescu氏は、まず体積速度音源の校正に取りかかりました。校正のための実験は、信頼性を保つために残響室と無響室の両方で、相互計測と音響パワーの直接計測を用いて実施されました。この校正では、与えられた駆動電流(I)に対する音源強さ(Q)が特定されました。

次のステップは、機室の音響伝達関数を測定するために、飛行機本体の試験を実施することでした。音響伝達関数は、校正音源の体積速度とシートに置かれたマイクロホンの音響応答から計算されます。12面体の音源が機室中央に置かれました。これは、ノーダルラインを避けるために、飛行機の中心からその全長の約1/8ずれた位置となっています。そして、機室全体に渡って置かれたマイクロホンによって、音響応答が計測されました。各シートに1つずつマイクロホンが置かれ、また中央のシートには、床から天井への変化を見るために、垂直マイクロホンアレイが置かれました。音響モデルにシート形状を含めなかったことは、結果として良い方法だと判明しました。なぜなら、シート床からシート上端まで、SPLは100 Hz以下で一定だったからです。シートや機室の細部形状をモデル化する必要がないということは、解析実行に要する時間の大幅な削減につながります。
機室構成の評価
次のステップは、機室の音響F E モデルをL M SSYSNOISEを用いて2種類の異なるメッシュ密度で作成することでした。6,940自由度となる要素長50センチのメッシュが、100 Hzまでの解析に用いられ、25,490自由度となる要素長25センチのメッシュが、200 Hzまでの解析に用いられます。トイレと調理室は、切り抜く形でモデル化されました。球形の音源が実験で用いられたのと同じ位置に置かれ、観測点もまた、実験でマイクロホンが置かれたのと同じ位置に配置されました。機室と表面吸収のモデル化は、実験とFE解析が互いに最も適合するよう様々に変更されました。音響伝達関数が、所定の位置における励振とシート位置における音響応答の関係から計算され、さらに実験結果に基づいて数値モデルがチューニングされました。
最後のステップは、このモデルの結果から、50~200Hzでの機室の表面吸音値と機室内空気の有効吸音値を計算することでした。重要な点は、計算された吸音値が、通常は航空会社によって異なる機室構成(カーペットやシートカバーの種類、仕切りの位置など)に依存していることです。解析による予測値は、常に残響室と無響室の両実験結果の間に収まりました。無響室では反射がないので、音源位置でピークを取りそこから急激に減少していますが、残響室の結果は複数のピークを持っていて、モードによる応答の変化がはっきりと示されています。
以前の音響モデルの境界条件は推測に基づいたものでしたが、現在では、妥当性の確認された値を、同じ吸音性能を持ったすべての飛行機のFEモデルに利用できるようになりました。このようにして作成された音響モデルは、新型航空機の設計だけでなく、既存航空機の新エンジンの評価やその他の低周波ノイズ問題の評価にも利用可能です。音響モデルを航空機全体の構造モデルと結合して加振できるようになれば、試作実験による方法よりもはるかに少ない時間とコストで、トイレや調理室などの位置を変更した場合の影響など、様々なオプションを検討できるようになります。また、機室内の任意位置でのSPLなど、実験では通常得ることのできない詳細な情報が、このモデルから入手することも可能になります。
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