開発初期段階での騒音レベルの予測と騒音低減対策の評価が、機室騒音の半減と飛行試験の60 パーセント削減に貢献
ターボプロップ機に対する需要が急増しています。ジェット機よりも価格が安く、燃料効率が40 パーセント優
れているため、ガスタービン駆動のプロペラ機が一般航空市場で再び人気を呼ぶようになりました。過去5 年
間で出荷量はほぼ倍増しています。この拡大するビジネス区分を狙って、各航空機メーカーは、ターボプロッ
プ機の主な欠点の1 つであるプロペラ騒音を克服し競争力を得ようとしています。このような音の中で最も不
快なのは、主として、回転する羽根から発生した空気伝播の圧力波が胴体にぶつかって振動を引き起こし、そ
れが航空機の構造体を伝わって内装トリムパネルにまで到達したとき、機室内に発生する拍動性の“ブーン”
という低周波音です。

このようなノイズは、開発サイクルの最終段階で実施される飛行試験まで発覚しないことがしばしばです。基本的に設計が凍結されれば、エンジニアは飛行機の様々な位置に振動を減衰させる吸音処理を施しながら、ノイズが許容レベルに収まるまで数回の飛行試験を繰り返すしか他に方法はありません。この試行錯誤的アプローチは非常にコストと手間がかかります。1 回の飛行試験には、何万ユーロものお金と何週間もの時間が必要です。
しかしHawker Beechcraft 社はもっと良い方法を見つけました。彼らはLMS Virtual.Lab Acoustics の技術を用いて、開発の初期段階で騒音レベルを予測し代替設計案を評価することで、飛行試験を待つことなく機室騒音を低減しています。
同社はまず、主力製品である9 人乗り1,000 馬力超の双発機、キングエア350i モデルの大幅な内装改良に際して、このアプローチを適用しています。この音響技術とプロセスは、今後、同社の小型モデル、キングエア200GTとC90GTi の騒音低減対策にも応用される予定です。キングエアシリーズは世界ナンバーワンのターボプロップ機ブランドであり、1960 年代に発売されて以来、約7,000 機のキングエアが生産されています。
設計初期段階での騒音の予測
Hawker Beechcraft 社の主任音響エンジニアであるIndranil Dandaroy博士によれば、機室内騒音は3 段階のシミュレーションで決定されます。最初に、プロペラの空気力学的荷重(基本的に、羽根から直接発散され
るノイズ)が、特定の羽根寸法、スパン、および回転速度に対するプロペラメーカーのプロファイルデータを基に、航空機業界標準のかなり単純な理論式を用いて計算されます。

この荷重データがLMS の流体- 音響解析ツールの入力となり、圧力荷重の周波数に対する関数として、空気中を伝わって胴体に至るノイズ伝搬がシミュレーションされます。このソフトウェアは、回転する羽根の拍動作用を自動的に表現する、ファンのモデリング機能を備えています。
また、ユーザーが空気領域までモデル化する必要のあった従来型の技術
とは違って、LMS のソフトウェアは境界要素法(BEM)に基づいているため、計算領域(この場合、プロペラと胴体)の境界表面だけをモデル化すれば良いのです。このアプローチはより高速なだけでなく、BEM は胴体から機体内部への音響放射以外に自由音場への放射も考慮しているため、従来の方法より正確です。この胴体への圧力荷重を用いて、LMS Virtual.Lab Acoustics が、胴体を伝わる固体伝播の振動と結果として生じる機室内空間の励振をモデル化する流体と構造の相互作用(FSI)連成解析によって機室内のノイズを計算します。この連成解析からの出力は、航空機構造体の振動コンターと、機室内の音圧レベルを表示する音圧マップです。
プロペラ、胴体、および機室の振動音響モデルがそれぞれ開発され互いに関連付けられると、エンジニアは機室内騒音レベルを低減するための様々な方法を試すことができるようになります。LMS ソフトウェアのパラ
メトリック機能を利用すれば、エンジニアはモデルを再構築することなく、様々なパラメータに適切な値を入力するだけで、構造モデルと音響モデルの特性を簡単に変更することができ、このアプローチはさらに容易に
なります。
「振動音響シミュレーションでは、様々な騒音低減シナリオをいろいろ試してみることが非常に簡単であり、解析モデルを変更しながら数十もの代替案を調査するのも、大抵数時間あれば可能です。それに対して、実機試験ではたった1 回変更するのに数週間はかかるでしょう」と、Dandaroy 博士は話しています。
静粛性を求めて設計を微調整

振動音響モデルを用いて調査中の問題の1 つに、2 基ある4 枚羽根プロペラの位相整合があります。「2 基のプロペラが発する音響振動は、両方の羽根が同じ方向を向いていない場合、すなわち両方が同時に垂直方向
に真っすぐ向いていないとき相殺されることがあります」と、Dandaroy博士は話しています。「位相差が20 ~ 30 度のとき、多くの場合感知できるほどの騒音レベルの低下が見られます。しかし、ぴったりの角度を見つけなければいけません。騒音レベルが最小となる位置を見つけるには、多数の位置を調査しなければいけませんが、シミュレーションによって、それぞれの騒音レベルを迅速に予測することができます。」
次に、エンジニアは振動を抑えるために、航空機の様々な場所にパッシブ防音処理装置を設置することの有効性を評価しています。それらは、小型のショックアブソーバに似た、質量とバネとダンパーのアセンブリで
あり、特定周波数の振動を吸収するよう調整されています。調整済みの振動吸収装置は外板またはフレームに取り付けられ、振動絶縁装置は胴体と内装トリムパネルの間に取り付けられます。これら装置の動的特性
は部品メーカーから提供され、LMS の音響モデルに入力されます。同様にして、エンジニアは絶縁拘束層減衰パネル(機体外板の内面に取り付けられる防振用の粘弾性層)の効果も調査しています。
「LMS の振動音響ツールによるシミュレーションでは、我々は最適解を見つけるために、様々な防音処理の組み合わせを何度も試すことが可能です。目標は、重量とコストを最小限に抑えながら、全体として最も静かな航空機設計を実現することです。これらの検討を開発の初期段階で実施することによって、我々は数多くの設計代替案を検討し、不備があれば早期に解決し、飛行試験中、さらに悪いケースでは出荷後の予期せぬ問題の発生を回避できるようになるのです。これらのシミュレーション検討の正確さや精密さのお陰で、我々は飛行試験では得ることのできない航空機の音響挙動に対する深い洞察が得られます」と、Dandaroy 博士は説明しています。
大きな見返り
音響シミュレーションはHawker Beechcraft 社に大きな見返りを与えています。Dandaroy 博士は、音響シミュレーションが開発プロセスに完全に組み込まれたあかつきには、機室内騒音レベルを検証するための飛行試験は最大60% 削減できると見積もっています。キングエア350i の目標は車室内騒音を4 dBA 低減することですが、これは、シミュレーションなしでエンジニアが達成できると思われる削減レベルより、さらに25% 高い値です。
キングエアシリーズの他の機種に対しても、同じ騒音低減アプローチを用いて音響シミュレーションが実施される予定になっています。計画では、LMS の振動音響技術は、エアダクトの音響特性や機室に伝播する
乱流境界層の振動など、乗客ができる限り快適なフライトを楽しむことができるよう、機室内騒音レベルに関連した様々な問題にも適用されます。
「我々は、完全に実験ベースの試行錯誤的な方法から、より効果的かつ迅速で、多方面の騒音低減に通じるシミュレーションベースの音響アプローチへと移行しているところです」と、Dandaroy 博士は述べています。「一般航空市場では、機室の静粛性は顧客満足の重要課題の1 つであり、最先端の音響シミュレーションによって、我々は必ず、この競争市場において来たるべき年のリーダーとしての地位を強化できることでしょう。