
CAEモデルに基づく最新の動的振動音響予測法を用いて、設計段階でギアノイズを正確に予測することにより、設計期間とエンジニアリング費用は削減可能であることが実証されました。Elasis社とLMSエンジニアリングサービスは協力して変速装置の詳細なCAEモデルを開発し、振動源のノイズ発生メカニズムをさまざまな運転条件のもとでシミュレーションしました。モデリング過程では、各段階でCAEモデルの妥当性を確認するための実験が行われました。この手法を用いることによって、試作実験に比べて騒音問題の
原因究明に役立つより多くの情報が得られ、早い段階からより迅速により低コストで解決策を打ち立てることが可能になります。
自動車メーカーはエンジンノイズとロードノイズを大幅に削減しつつあるため、トランスミッションノイズが他の騒音源によってかき消されることが次第に少なくなり、その設計の重要性はますます増大してきています。トランスミッションの設計者は、クラッチ衝撃音、歯車の鳴きやガタ打ち音、動力伝達装置のうなり音など、数多くのさまざまな状況で生じる騒音問題に対処する必要があります。変速機で実際に問題となる2つの主要な騒音は歯車の鳴きとガタ打ち音です。
主要なノイズの発生メカニズム
歯車の鳴きは音色を持ったノイズで、さまざまな歯車対の歯数に対応したエンジン回転次数で生じます。接触する歯数は1回転する間に変化しています。例えば、ある時点では2つの歯が接触しており、別の時点では3つの歯が接触しています。さらに、特定の歯車対の接触位置は歯面上を常に移動しています。
それぞれの歯を片持ちばりとみなすと、これらはりの曲げ剛性は接触位置がはり上を移動するにつれて変化します。特定の1つの歯において、接触位置が歯底の方向に移動すると剛性は増大し、歯先の方向に移動すると減少します。この現象は時間の関数としての特別な剛性変化と説明できます。一方、歯車のガタ打ち音は、動力を伝達していない歯車が各歯車の
歯面間の接線方向クリアランスと、歯車とシャフトの間の半径方向と軸方向のクリアランスで定まる限界内で自由に動き得ることから生じます。これらの歯車が他の歯車やシャフトとぶつかり、結果として金属間で衝突が生じます。この衝撃力が広帯域の周波数成分からなる振動を生成するので
す。この衝突は、燃焼力によるエンジン回転数の変動によって促進されます。歯車の鳴きとガタ打ち音は、シャフトベアリングに伝達され、それが最終的にトランスミッションハウジングを励起します。ハウジングが振動すると騒音放射物体として作用することになります。
試作実験からCAEへの移行

今日、トランスミッションメーカーの多くは、試作実験段階でかなりの時間とエネルギーを費やすことでこれらの問題に対処しようとしています。彼らは、さまざまなギアでエンジンを回転させたときやアイドリング時に、ギアをシフトすると発生するトランスミッションノイズを測定します。この方法で困るのは、プロトタイプを組み立てて試験を実施し、起こり得る問題を解決しようとさらにプロトタイプを修正して試験を繰り返すという作業が非常に時間とコストのかかるという点です。
もう1つの問題は、試作実験から得られる情報量は、トランスミッションに設置されるセンサーの数と精度によって制限されるという点です。これらの理由から、Elasis社はプロトタイプが利用可能になる前の設計段階から変速機ノイズを把握し評価することに着手しました。目標は、設計の早い段階からトランスミッションの振動騒音性能を評価し、試作段階でのトラブルシューティングの必要性を低減または除去するまで設計を最適化できるようにすることです。Elasis社とLMSが導入に成功したアプローチは、ベアリングに働く既知なる荷重の下でトランスミッションハウジングがどのように振動し音を放射するか、そしてこのノイズが車室内にいかに伝達されるかを分析するため、トランスミッションハウジングの解析を実施することでした。トランスミッションハウジングは有限要素(FE)モデルと境界要素(BE)モデルでモデル化され、ベアリング荷重は伝達経路解析(TPA)などによって実験的に同定されました。実験とシミュレーションを組み合わせる手法は、ハウジングの弱い部分を突き止め、リブの追加や肉厚の変更などの効果的な対策を提案する際にも利用されました。
このアプローチの入力荷重は、現行タイプの変速機が実験可能であればその設計をもとに決定することも、あるいは類似タイプの変速機の経験から現実に即して定めることもできます。このアプローチは、騒音問題がトランスミッションハウジングの共振に関連している場合に適切です。それがベアリングに発生する内力を増幅するからです。しかし、この問題は主に高い励振力で引き起こされているため、ハウジングに対して構造変更を施すだけでは不十分かも知れず、その場合は別のアプローチを用いる必要があります。
発生源でのノイズの削減

Elasis社はFiat社傘下のエンジニアリング会社であり、主にFiat Auto社のもとでFiat-GM Powertrain合弁会社(FGP)向けに車両とパワートレインの研究開発に取り組んでいます。現行プロジェクトでは、LMSとElasis社はこれまでの手法を超えて、新型トランスミッションの騒音源を詳細に分析することに着手しました。そこでは、歯車のガタ打ち音に関連した広い周波数レンジにおいて、動的内力を正確に予測できるレベルまで詳細にトランスミッションの複雑な内部機構をモデリングすることが大きな課題でした。
LMSのエンジニアリング専門家は、トランスミッションに生じるノイズの根本原因を捉えるため、マルチボディシミュレーションとBE解析を組み合わせた新アプローチを開発しました。最初のステップはLMSの機構解析ソフトウェアを使用して、歯車の剛性、バックラッシ、ベアリング特性、そしてハブとスリーブの結合特性まで組み込んだトランスミッション内部機構の詳細な動的モデルを作成することでした。シャフトやハウジングなど部品の弾性はFEモデルから計算されたモーダルパラメータで表現されました。このプロジェクトでは歯車のガタ打ち音が主な関心事であったため、歯面間の接触位置が移動することによる剛性の変動は無視され、歯面同士が接触しても剛性は一定と見なされました。歯車の鳴きに焦点を当てる場合は、このやり方を拡大適用して考えることができます。例えば歯面接触時の剛性を接触位置に関連したパラメータの関数として規定する解析的な関係式を使用できます。次のステップは、LMSの音響解析ソフトウェアを用いてハウジングのBEモデルを作成し、シミュレーションにより得られた条件の下で放射される音を予測することです。
モデルが的確であることの確認

Elasis社のNVH部門は、マニュアル変速機を試験するための最先端を行く設備を構築しています。それは、実際の内燃エンジンが生成するのと同じ500Hzまでの回転数とトルク変動の再生が可能な「バーチャル・エンジン・シミュレータ」です。これによって実際のエンジンを準備する必要がなく変速機を唯一の振動源としてノイズを測定でき、エンジン音のマスク効果を排除して歯車のガタ打ち音の詳細な検討が可能になります。このプロジェクトから得られた重要な知見の1つは、エンジンシャフトの低回転数における速度変動が、主に歯車のガタ打ち音を増大させているという事実でした。
マルチボディシミュレーションへの入力データは、エンジン回転数の変動で代表される燃焼パルスと、トランスミッションに見られる抵抗トルクです。抵抗トルクは車両の負荷を表しています。マルチボディシミュレーションは、出力シャフトに抵抗トルクを適用しながらフライホイールに回転速度を与えることによって5速ギアで実施されました。変速機ハウジングがノイズ放射物体として作用していました。これはFEモデルのモードで表現された弾性体コンポーネントとしてモデル化されていたので、マルチボディシミュレーションでは時間の関数としてのモード寄与係数が計算されました。それらは周波数領域に変換され、変速機の音響振動モデルに適用されて放射音の予測が行われました。
この手法によって、Elasis社は実験結果がまだ入手されない開発の早い段階から設計上のより良い決断を下すことが可能になります。また試作実験に基づく方法に比べて設計案の性能についてはるかに多くの情報が得られ、代替案をより迅速かつ低コストで評価することが可能になります。これらのシミュレーションに基づく新手法はさらに改良され、Elasis社内で広く使用されつつあり、トランスミッションの設計プロセスの大幅な改善につながっています。