BMW 社の技術者は、構造設計の要件を正確に定義することにより、自動二輪車の安定性能をコンピュータ・シミュレーションを用いて検証します。そこでは広い範囲に亘ってコンピュータ・シミュレーションを用いた評価が行われ、安定性の要件が確認されています。基本的な考えは、数回の実物による物理的テストに制限されることなく、求める安定性の範囲内でより様々な可能性を探ることにあります。
安定性の測定
一般自動二輪車の安定性の分野では、技術者は製造工程に入る前に各新型モデルの縦揺れおよびキックバックを測定する一連のテストを設定しています。例えば一つの代表的なテストでは、ドライバーが、突然ハンドルを切って放すないなや高速で自動二輪車を加速します。そのテストの目的は、その時度二輪車の横揺れが止まってまっすぐな経路に回復するまでの時間周期を評価することがあります。
揺れを測定するテストは、ハンドルバーを動かす代わりにテストドライバーが腰を上下に動かすことで同様に行われます。これらの両テストは、ドライバーに起因する励起を減衰するための自動二輪車の能力を測定します。もう1つ重要な安定性の測定であるキックバックは路面に起因する励起に対する自動二輪車の応答を測定します。
このテストは、道路上の一定の距離に設けられた「こぶ」による自動二輪車のサスペンション・システムの励起を測定します。
物理テストの制限事項
BMW社の技術者は、製品の安定性が適切であることを証明するために、これらのテストの他にも数多くのテストを行います。それらのテストを通じて、プロトタイプや完成品の自動二輪車の安定特性がほぼ完全に測定されます。しかし、物理的テストは高いコストと時間がかかるので、考え得る設計の代替案の数は制限されます。テストを開始する前に、物理的プロトタイプを組み立てる必要がありますし、また、自動二輪車には、テストデータを収集するために機器を装備する必要があります。天候、ドライバーおよび走行路の空き具合に因るテストの遅れも問題となります。
このことが、BMW社でほぼ10年前に自動二輪車の設計代替案の安定性評価にコンピュータ・シミュレーションの使用を研究し始めた主な理由でした。
複数の設計代替案の評価
コンピュータ・シミュレーションによると、ホイールベースの延長や、重量の低減などの評価設計パラメータの変更は比較的容易に行われ、いろいろな構成を評価することが可能になりました。この種の変更は、物理的テストや自動二輪車の製造後に行った場合は高いコストと長時間を要します。コンピュータ・シミュレーションによると、テスト走行路で行うには危険で、損傷が大きく、かつ高価な極限での自動二輪車の評価作業を代替することができ、更に物理的テストよりも多くの状況下でのデータが得られます。物理的テストの結果は、通常センサーをセットした少数の個所に限られますが、一方、コンピュータ・シミュレーションは、全ての問題領域からのデータを集めることができます。BMW社がシミュレーションを始めた当時は、高性能自動二輪車の複雑なメカニズムを評価できるソフトウエア・パッケージはほんの少数でした。
技術者は、これらのソフトウエア・パッケージのいくつかを評価し、LMS CADSI(Computer Aided Design Simulation, Cralville, Iowa)のDADSメカニカル・システム・シミュレーション・ソフトウエアを選択しました。この高性能マルチボディ・ダイナミック・ソフトウエア・パッケージは、一般的な制約条件や、重力、接触力などを伴う自動車や他のメカニカル・システムの仮想プロトタイプ作成に世界中で採用されています。DADSの主な利点は、プログラムの機能を拡張するためのユーザ定義のサブルーチンを比較的容易に作成できるオープン・アーキテクチャにあります。
タイヤおよびドライバー制御用サブルーチン
数年に亘って、BMW社の技術者は上述された3つの安定性の測定を可能にするための2つのサブルーチンを開発しました。1つのサブルーチンはドライバーの振る舞いをモデル化するもので、このサブルーチンは、自動二輪車の速度の調節や、ハンドル操作、そしてブレーキ操作をコントロールできます。もう1つの重要なサブルーチンは、タイヤと路面間に加わる力を決定することにより自動二輪車のタイヤをモデル化するものです。
このサブルーチンは、幾つかの大学やMetzler、Pilleliを含む他者の協力を得て開発されました。通常DADSプログラムにはタイヤのモデルが含まれますが、BMW社の自動二輪車のタイヤの温度は50℃まで温度上昇し普通のモデルでは捕捉できない力を発生させるために自社用のプログラムを作成しました。
またこのサブルーチンは、タイヤの力に起こる、瞬間的には現れないがむしろ短時間の間に発達するゆるみと呼ばれる現象を捕捉します。また、いかなる自動二輪車のモデルも評価できるように修正可能なモデルも開発しました。このモデルの自由度の数は変更可能ですが、一般的には約26になっています。モデルの主なエレメントには、メインフレーム、上部および下部アッパー・フォーク、テレレバー、前輪および後輪スイング・アームと、数個の小型コンポーネントを含みます。ドライバーは、下部および上部のボディを含む2個の別々のエレメントから構成され、それらのボディは、ドライバーがその上部ボディを回転させることが可能なスプリング・ダンピング・メカニズムに接続されます。また、上述されたタイヤおよびドライバー制御用サブルーチンもモデルの重要な部分を構成しています。重心および慣性モーメントを含む質量特性もそのモデルに追加されます。剛性問題に関しては、自社のモデルにスプリングおよびショックアブソーバそして構造的柔軟性を結合することにより、解決しようとしています。
高精度
このモデルは、一般安定性テストを非常に高い精度でシミュレートする能力があることを証明しました。
事実、技術者は、シミュレーションの結果は少なくともテスト走行路で得られる測定値と同様に正確であると考えています。例えば、縦揺れおよび横揺れテストにおいて、シミュレーションは約1秒の正確さでダンピング測定を提供します。シミュレーション・モデルの主な利点は、プロトタイプ・ショップで組み立てるよりもはるかに多くの製造上のバリエーションを検討可能にしたことです。
結果として、BMW社の技術者は、現在、最終製品の安定性を保証する剛性、質量分布などの構造設計の要件を仕様としています。シミュレーション結果は自動二輪車を市場に出す前にテスト走行路で何度も確認されます。
厳密な品質保証レベルの向上に加えて、シミュレーションは、新型自動二輪車の設計プロセスも合理化しました。今では、技術者は最初のプロトタイプを製造するずっと前にコンピュータ・シミュレーションを用いて、設計コンセプトの代替案の性能を評価しています。シミュレーションの速度と便利さが、従来の試行錯誤によるやり方よりはるかに少ない時間で、広範代替案を解析することを可能にしています。その結果は、より早いスピードで革新的製品が送り出されるとともに、市場に新製品を出すための開発時間が低減されました。
このアプリケーションが証明するように、コンピュータ・シミュレーションは設計者が、設計要件をより正確に仕様化することで、品質を高めることができます。BMW社におけるシミュレーションの本当のよさは、技術者がより短い時間で自動二輪車を製造できるようになったことにあります。
この技術の成功は、十分に工場に認知されて、更にシミュレーションの効率および適応性を改善するために複数のプロジェクトが進行しています。そのひとつは特殊な路面で運転する時の設計の性能を決定するためのシミュレーション能力の開発です。またフレームの応答をより正確にシミュレートするフレキシブル・エレメントの結合によるモデルの精度の改善も進んでいます。